半年に一度位の割合で、街ですれ違う人がいる。彼はいつも自転車に乗って。

25,6年ほど前に出入りしていたBarで知り合った。

おそらく70年代に開店し、20年ほど前に無くなったその店は、地元のアート界隈ではちょっと知られたお店で、クセの強い美術家、舞踏家、演劇人からその他諸々、まあそんな”アングラ”な人たちが集っていた。ママさんが自分達で塗ったと言っていた漆喰の壁には泥臭い現代美術の匂いプンプンの絵画が掛かり、棚にオブジェが並ぶ。

そこには1代の古いアップライドピアノがあって、私はいつも一人で飲みに行ってはピアノを弾かせてもらっていた。

ある日、座ったカウンター席の3つ4つ向こうの席に彼も座って一人で飲んでいた。

こいつもピアノを弾くのだとママさんが言った。ピアノを弾いてみたくてワンルームの部屋に電子ピアノを買い込み、仕事が終わり家に帰っては練習しているのだと。

同年代と言うこともあり、音楽や映画やアートの事なんかの話題ですぐに意気投合した。

別に男女の仲になった訳ではない。良い飲み友達が出来たという感じだ。

まだ携帯電話がそんなに普及していない時代だったので、よく家の電話で話し、週末の夜には自転車に乗って二人で色々なお店に飲みに行った。彼はちょい飲み出来て、料理も美味くてちょっと小洒落たお店を良く知っていた。

私が結婚し子供が出来てからはちょっとずつ疎遠になり、出かけた時にバッタリ出会った時はお互いの近況報告などして別れる。

けれどもここ数年前からわざわざ自転車を止めて会話を交わす事も、すれ違いざまにさっと左手を挙げて振っていく事も、チラッ私の顔を確かめて行く事も無くなった。

もうすれ違うことも無いかもしれない。